「信じられないものを目の当たりにしたようなショック」(メディア・インテグレーション記事文中より)…まさにそんな感じだったので思わず書いておく。
メディア・インテグレーションのwebで、Celemony社の
Melodyne新ヴァージョンのデモムービーが紹介されていた。これは15日までフランクフルトで開催されていた、音楽機材の見本市「musikmesse2008」でのデモの模様。Melodyneというのは、基本的には音の「音程」を変えるソフトである。私の使っているDigital Performerにも似た機能は有り、他のソフトでも同様の機能は多いのだが、いずれも単音にはある程度強いものの、和音は「単音が複数重なったもの」ではなく「ひつとの音のかたまり」として認識してしまうので上手く処理できず、ケロケロ(クチャクチャ)した音になってしまう。
つまり(私の認識としては)、音を重ねるという行為は不可逆な変化で、混ぜた状態から元どおりに分離することはできないと思っていた。イメージとしては飲み物とおつまみの違いのようなものだろうか。たとえばジンとトニックを混ぜてジントニックを作ってしまったら、元のジン単体とトニック単体には戻せないが、柿ピーをめいっぱい混ぜても、(根性があれば)柿の種とピーナッツに分離できるでしょ? そういう感じ。
もちろん、ある程度の音の分解は可能だし、カラオケじゃないCDをカラオケにする「ヴォーカル・キャンセル」機能なんかはそんな技術を使った好例だと思うが、それにしたって完璧にヴォーカルを消すことは不可能なのである。だから、TVドラマ「CSI」とか日本の刑事物とかで、クッキリと特定の音だけを取り出したりカットしたりするのは、ちょっと嘘くさいなぁ…と思ってた。できないのは、今の科学技術の限界だ、と。
さて、話を戻して。このデモのすごいのは、和音をいとも簡単に単音に分解分析し、それぞれ別の音として音程を変えている点。特にムービー冒頭の、アコースティック・ギターのフレーズをリアルタイムに変更しているところは、まさに「信じられないものを目の当たりにしたようなショック」だった。
加工した後のデータのクォリティがどのくらいなのかは解らないが、少なくともこのMelodyneを使えば、「和音を分析して構成音に分解することは(ある程度)可能」ということになる。で、何に便利かというと、既成曲の採譜にかなり有効なのではないだろうか。今のMelodyneにもオーディオをMIDIデータに変換する機能はあるので、それを介して、「音程を変える」という本来の用途ではなく、「楽譜に書き出す」ことに使えるかもしれない。そしたら、採譜関係の仕事の作業時間が短縮できるかも…などと夢想したりしてみる。
ちなみに、現行のMelodyneでアコギのストロークを変換したデモが
Celemony社のサイトにあった。これを聴くと、アンサンブル中での使用は十分実用的な印象。ピアノやバンド演奏など他の参考データもそこにあるので、興味がある方は参考まで(これらは現行のMelodyneを使ったもので、和音をバラバラにしてのデモではなく丸ごと音程やテンポを変えたものなので、ご注意を)。
新Melodyneの機能紹介ムービーも
公開されていた。こちらでは、アコギのコードストロークを分解分析し、音程を変えたり単音を取り出したりしていた。すげー(他にもけっこうアコギが使われているので、参考にしやすい)。
というわけで、科学の進歩を実感した一日なのであった(ちなみに新Melodyneは秋頃発売らしい)。
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